Nスペドラマ「詐欺の子」が心に刺さって泣く

実際の詐欺事件を基にしたドラマ「詐欺の子」をみました。

そこにはウシジマくんのようなダークヒーローは居なくて、ただ純粋に”現実”を落とし込んだ脚本と感じました。

お年寄りの泣き崩れる演技は、私の心にダイレクトアタックしすぎなんですよ。……自分の親を見ているみたいで

もしものための貯蓄があだとなる「特殊詐欺」

NHKスペシャル「詐欺の子」

特殊詐欺事件を基にしたドラマで、その手口などをインタビューを交え、ドラマに落とし込んだ作品です。

特殊詐欺の防止なのか、それとも少年犯罪の抑制のためか……。加害側と被害側どちらの視点も描かれているため、まあとにかく1時間半が濃かった。

騙される老人の悲壮感が半端ない

物語はオトリ捜査に協力したある老人によって、実行犯が逮捕されるところから始まります。

この人はすでに1度騙されてお金を取られていて、そのせいで娘(ぽい)とは喧嘩になり、近所からは馬鹿呼ばわりされ、伴侶は自殺して家族崩壊しています。でも未だにあの時の電話は確かに息子だったと信じる母が、被害側の主人公みたいな存在。

作中ではその”騙された過程”が、すごく生々しく演じられてましたね。

1度目に騙されてから、数年後が描かれていると思いますが、出会う人達から何度も「騙されてるよ」「あんたバカだよ」と言われ続けたんでしょうね……。それを考えるのに”疲れ”を感じさせる名演でした。

騙されても「あれは本人だった」と信じる母が切ない

オレオレ詐欺は実の息子を語って近づきます。劇中では偶然が重なって信じてしまうケースを取り上げており、加害側と被害側の心理描写が生々しかった。

被害家族にかかってきた電話は息子を語る者。突然の電話に母は心配して、代わった父は激怒しています。そこから喧嘩かなにかで、両親と実の息子は絶縁状態であると推測できます。

本当の息子であることを信じた母は、お金を騙し取られてしまい、その結果として家族崩壊に陥ってしまいます。

家族や親族からは「迷惑かけるな」と小言をいわれ、近所にはバカにされ続け、疲れた父は自殺してしまう……。創作でもよくあるパターンですが、崩壊していく過程が必要以上に生々しい。

法廷では捜査協力と参考人で答弁していましたが、検察の「なぜ騙されたんですか?」の問いに、「あの声はダイスケだったんです」と信じて貫き通す……。

そして電話をかけた「かけ子」は、偶然にも名前が大輔で一致していたと。あれは本当に息子だった、お金を騙し取られてたとえ間違いと指摘されても、それは実の息子に与えた物──と信じている。

他人が「貴方、騙されてますよ」と窘めたところで、私の息子にあげた物だからなんで怒られなきゃいけないの? ──その考えは当然であり、演技も本当に上手く、実の母を見ているようで辛かった。いや騙されてはないけど。

老人の泣き崩れる姿はホント心にささる

大輔が詐欺グループの一味であることを、自身の母親にバレて諭され、過ちの清算をするため先のダイスケ母に会いに行くんですが……。

そこのやりとりで、「私の息子はダイスケです」「いや私が電話をした大輔です」と、名前は一致しているけど顔は違うから、お互いの噛み合わなさっぷりがリアル。

騙し取ったお金を置いていくダイスケくん。それを見た母は恐怖で小さくなってしまいます。ここの「もうやだぁ……」が1番心にキツかった。

自分は信じているからそれでいいんじゃない?

加害側はタンス預金を解放して、経済を潤わせると大義名分を掲げていますが、まあロンダリングなど裏方面でしか動かないから、それが経済に影響するかは別問題

末端は電話をしたり荷物を受け取るのが仕事。実行犯なので刑は重くなりやすい。それをまとめる側は指示するだけで逮捕リスクは低く、でも貰える額は末端の倍以上。まあフランチャイズ的な経営方法みたいなもんです。

一方で被害側は、騙されたと気づく人と、騙されたことを信じたくない人で分かれます。

劇中で上手いのは、ダイスケ本人がそれは間違い詐欺だよと、両親に連絡をしなかったこと。絶縁しているのか両親から連絡できず、息子を語った詐欺を”本物”と信じる心理描写。──これ、理解できない人には全然わからないだろうけど、息子だと信じてお金を渡したところがポイントです

大輔が「私がダイスケです」と尋ねても、あの時の声とは違うし見た目も違うから、母は何いってんだコイツ? となる。

ようするにダイスケ本人から「それは詐欺だよ」と言われない限り、協力した母は、騙されたことを信じません。これは法廷の答弁でも表現されていて、検察の「やべーぞコイツ」感がまたリアルでした。

止どめに加害者側の家族に残された結末

詐欺行為を自首した大輔くんは逮捕され、残された実母は普段と変わらぬ生活をしています。

ただひとつ違うのは、残された母親は周囲から「犯罪者の息子を持つ親」となじられ続けること。

加害側の家庭環境も複雑ですが、法廷で言及された「貴方と同じ環境でも立派に生活している人はいる」との尋問が、目線の違いを感じさせられます。その言葉に憤る大輔は、立派ってなんだよと、人それぞれだろうと反論をする。それは誰しもが感じる意識のすれ違いです。

「詐欺の子」は、加害者と被害者の心理を正確に捉え、ただあるがままを記録したドキュメントドラマでした。これを見て心が痛まない人間って、犯罪組織のトップクラスしかいないんじゃねぇかな? と思います。

騙される側も騙す側も、人それぞれの想いがあります。

ただ一辺倒に「騙されるほうがバカ」と考えるのではなく、用心深くでも偶然がいくつも一致することで騙されてしまう──人のやさしさにつけ込む無邪気な悪意には、対応も防止も何も……

ただ出会わないことを祈るしかないのでは?